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top > 2009年04月 > 06日
2009
Apr
06
PM19:22

 ミュージカルを積極的に観に行く人って、どれくらいいるんだろう。
 そう頻繁にではないにせよ、機会があれば見に行きたいと思う人って。

 たとえばニューヨークやロンドンなどでは、夜、大人のカップルがおしゃれをしてミュージカルを観に出かけるのがごく普通のことになっているけれど、日本にはまだそういう土壌が育っていない気がする。
「登場人物がいきなり歌い出す、あの不自然さがどうも駄目なのよねー」
 なんていう人もいるが、ショーとして観るなら、お芝居も歌も両方いっぺんに楽しめるわけだし、慣れてしまえばどうということもないのにな、と思う。
 そもそも人間は、歌う生きものなのだ。
 嬉しくても、悲しくても歌う。
 ミュージカルというのは、ある意味において、もっとも人間の人間らしいところが楽しめる舞台と言えるんじゃないか? と私などは思うのだけど。

 なんでこんなことを書いているかといえば、昨日、とあるミュージカルのイベントを見てきたからだ。
 この5月5日から月末まで上演されるミュージカル、『この森で、天使はバスを降りた』 ――もともとの原作は映画で、それがNYのオフブロードウェイのミュージカルになって大好評を博した。
 折しも2001年9月7日、あの9.11の起こるわずか4日前に幕を開け、テロでブロードウェイ全体が低迷するなか大盛況のうちに幕を閉じたこの作品は、年末には「ニューヨークマガジン」誌の今年の舞台ベスト10にも選ばれ、その後もアメリカ国内で200回以上も上演されているという。
 この五月に日比谷のシアタークリエで上演されるのは、その日本語版の初演、というわけなのだ。

 で、昨日のイベントはといえば、まず原作の映画が上映され、そのあとで5月のミュージカルに出演するキャストの方たちのトークショーがあり、そして最後にミュージカルナンバーが生で聴ける、という贅沢なものだった。

 久々に出かけていったお台場のメディアージュ。
 大スクリーンで映画を観るのも、この作品を観るのも、これまた久しぶりのことだった。
 原作となった『この森で、天使はバスを降りた』は、公開自体は何年も前だけれど、サンダンス映画祭の観客賞も獲っただけあって日本でもけっこう話題になったから、記憶にある人も多いのではないだろうか。印象的なタイトルだしね。

 私はこれを、どこかの国からの旅の帰り、飛行機の機内で観た。
 字幕がついていなかったから、細かい部分への理解は半分にも満たなかったと思うのだけれど、とにかくいい映画だったという印象だけは残っていた。
 で、今回、もう一度(こんどは字幕付きで)観ることが出来たわけだが――。

 いやもう、やられました。
 恥ずかしいくらい、ぼろぼろ泣いた。
 
 物語は、若い女性パーシーが刑務所から釈放されるところから始まる。
 過去に癒しがたい傷と後悔を抱えたパーシーは、ギリアドという辺鄙な町でバスを降りる。
 その町には一軒だけ、偏屈な老婦人ハナが経営する古い食堂があって、パーシーは保安官の紹介でそこに住みこみながら働くことになるのだが、閉鎖的な町の人々は、彼女を好奇と偏見の目でしか見ない。とくにパーシーが過去に殺人を犯していると知ったハナの甥は、彼女のことをひたすら疑い、監視し続ける。
 けれどある日、ハナが足を骨折したことから、パーシーは食堂を切り盛りするために孤軍奮闘することになり、それがきっかけでハナとも、そして甥の嫁シェルビーとも徐々に心を通わせ合うようになっていく。
 さらには、食堂を手放したいと考えるハナに、パーシーがひとつのアイディアを授けたことから、騒ぎはやがて町中を明るく巻きこみ、彼女はようやく人々に受け容れられていくかのように見えたのだったが――。

 悲劇というものは、いつ降りかかってくるかわからなくて、いったん降ってきたが最後、もう誰にも止めることは出来ない。
 物語の後半はもう、胸が痛くてたまらなかった。
 そう、「恥ずかしいくらい」泣きはしたけれど、まわりでも洟をすする音があちこちから響いていたから、あれを観て泣くのはきっと、恥ずかしいことではなかったんだろう。むしろ、ああいった物語に心動かされないとしたら、人間終わっている、という気もする。
 上映が終わり、場内が明るくなったあと、一緒に観ていた同居人と異口同音に、やられたねえ、と言い合った。
 文句なしの秀作。物語は幾重にも伏線が絡まり合っているのに、無駄なシーンもセリフもいっこもない。泣いたけど、お涙頂戴的なところは一切ない。或る意味ファンタジーとも言えるのだけれど、哀しいくらいリアルでもあって……。

 感動さめやらぬまま、ミュージカルのキャストの方々四人によるトークショーに突入。
 なんか、トークショーを観客の側から見るって新鮮だった。みんな、出てくる人をこういうふうな気持ちで迎え、こういうふうな気持ちで話を聞くんだなあ。

 この日の出演者は、パーシー役の大塚ちひろさん、ハナ役の剣幸さん、シェルビー役の土居裕子さん、ジョー役の藤岡正明さん、と豪華。
 ものすごく仲良しで和気藹々だという稽古場の雰囲気がそのまま伝わってくるようなトークも楽しかったが、ピアノ一台での歌の披露になったとたん、驚愕した。歌い始めた瞬間に、役者さんたちが誰もかれも、急に大きく見えたのだ。

 生の声ならではの迫力。
 その声が、一人、二人、三人と重なりあうことによってぐんぐん増幅していき、こちらの胸にぐいぐい届く。心臓をじかに手でつかまれるみたいに。全身の毛穴がひらいて、そこから音が、声が、しみこんでくる。
 まさに、圧巻。すごいなあ、プロって。
 映画と違って、生で、その場で演じられているものを間近に見るというのは、こちらにとってもものすごくエキサイティングなことなのだ。それこそ、いつ何が起きるかわからない。「今、ここ」にしかないものを目撃しているということへの緊張と、だからこその感動。

 映画と違うといえば、なんでも、ミュージカルのほうは結末が映画とは違うのだそうだ。もっと明るい、あったかい気持ちになれる物語になっています、とのことだった。
 なんたって、映画がここまで素敵だったのだ。私の好きな映画の、ベスト5の順位が変わってしまったくらいに。
 こうなるとやはり、オフブロードウェイの話題をさらったというミュージカルのほうも観てみたくなってくる。
 で、いま調べてみたら、詳細はこちらに載ってました。
 http://www.tohostage.com/konomori/index.html

 五月のGW明け、か。出かけてみるべかな。
 しかし弱ったな。こういう愉しいユウワクばかりあるから、原稿がなかなか進まないんだよな……。 ←結局イイワケ?(^^;) 




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